保健所には管内の保健・医療・福祉の体制を整備する役割があります。平成20年度に在宅ホスピスケア地域連結会議が保健所に設置され、翌年、在宅ターミナルケア地域連絡会議に名称が変わり現在は、在宅療養者関する課題への取組に拡大し「療養者を中心とした支援」に向けた多職種連携・協働の推進を行っています。今日は想いのマップとともに在宅療養のしおりをお手元にお配りしています。このしおりは中北地域(甲府市・甲斐市・中央市・昭和町)の病院や在宅療養を支援する診療所や訪問看護ステーション、そして介護サービスを開始するまでの手順などが書いてあります。しかし、さらに療養される方を中心に支援できる媒体が必要と考えていました。ある神経難病の方は1人暮らしで24時間様々なサービスを受けて、その方らしく凛として生活をしていました。その方は「私はどうありたいかをいつも頭の中のもう一人の自分に聞いています。ありたい姿を相談しています。自分の思いを話せない、伝えられないまま長い間支援を受けていると自分が何をしたいか、本当の自分の気持ちが分からなくなってしまうのです。基本は療養されている方ご本人がどうありたいかです。だから聴いてくださることが考えるきっかけになると思います。」と、わずかに動く指で2時間かけてパソコンで打って教えてくださいました。この言葉は想いのマップの最後のベージにも掲載させていただきました。どうありたいかを投げかけてその方の想いを聞いていく必要性を感じ、先ほどの媒体の方向性が見えたそうです。
様々な職種の方々に入ってもらい想いのマップの検討会議が始まりました。まず共有したことは死生観でした。どんな最期を自分自身が送りたいか考えた時に、「人間らしく安らかに自然に任せた死を迎えたい」というのが検討委員の方々の思いでした。
しかし、現実は支援者や家族の限界による選択になっていないか、最期はどうするかをご本人が考えられないままの選択になっていないか、家族自身もお別れの準備や覚悟ができるための情報が十分提供されているだろうか、療養者ご本人も自分らしく生きるということが具体的にイメージでき、さらに今の時間を充実していくことを考えられているだろうか、療養者本人や家族が選択でき、「私らしく生きる」ということが具体的にイメージできみんなで共有し、今を充実していけるもの・・・それが「想いのマップ」ではないかと共有しました。
想いのマップの構成は『作成目的・活用方法』『コラム・支援のポイント』『多職種の立場から』『想いのマップの記入様式』です。また、療養者自身が語ってもらうための支援のポイントがまとめられています。9ページからは各機関の機能や担当者の役割が多職種の立場で熱い思いを書いてくださっています。一般の療養されている方や家族に分かりやすく伝えられるものとして活用し、支援関係者もそれぞれの職種の特徴を理解しながら、療養者の想いをかなえるための連携に活用していくものです。
30ページからは想いのマップの記入用紙です。想いは変わります。語る時にいる人もその時によって違うこともあるので変わることを前提に、いつ誰とそのことを話し共有したのかを書けるようになっています。
積み重ねてきた道のり(歩み) ~今までの私の想い~
私の好むことには今まで大切にしてきた心に残るような出来事・楽しい・ほっとする・幸せだと感じることや、自分にしかできない、これだけは自分でしたいことなどを書いていただくところです。語っていただきながらこれまでの歩みを共有していきます。私の好まないことは話しにくいこともあるかと思います。思い出したくなかったり、まだ話せなかったりすることもあるかもしれませんが、月日がたつことによって環境が変わり、その方の心境も変化すると少し異なる見方ができることもあるかもしれません。語れることを語っていただき、全ての項目を埋める必要はありません。歩みを振り返って語ることで気付いたりご自身のことを再認識したり自分と向き合うきっかけになると思います。
今起きていること ~今の私の想い~
健康については、現在の健康状態、医師から病気の状態をどのように説明されてどのような経過をたどるか、ご本人はどのように思っているのか語っていただくところです。そういう健康状態を踏まえて今の生活はどうなのか、毎日の過ごし方、これからの暮らしを語っていただくところが健康状態を踏まえた生活になります。
これからの私
私の想い(何をしたいか)いつ誰とどんな風に何をしたいかをできるだけ具体的に語っていただくところです。したいことが具体的であればある程、力がわいてきて希望につながると思います。私達もそれを実現していくためにはどうしたらいいのかをその方や他の支援者と一緒に考えていくことができます。病気になって間もなかったり、受容できていない段階の場合はご自身でも考えられなかったり、逆にたずねることでご本人を辛くさせてしまうこともあるかもしれません。無理に引き出すのではなく、その方の力を信じて、話せるようになるまで待つことも必要だと思います。気になっていること(迷っていること)では、やり残したこと・整理したかったこと・最期の過ごし方・看取りに対する想い・経済的なことを語るところで、心の奥に秘めていることでもあります。語れる時には語ってもらうことが必要と思っています。
変わりたくない私 変わりたい私
こだわり続けたいこと・伝え残したいこと、例えば自分がこういう風に歩んできたことを伝えて残したい、こだわり続けたいことを語っていただくところです。健康について(こうなりたい姿)と生活について(こんな生活がしたい)も、変わりたくない私やこうなればいいなと思うことも語っていただくところです。どのくらい先のことを考えられるかによっても違うと思います。
心の中の想いを言葉にするのは非常に難しいですし、とまどいもあると思います。ですが、想いのマップの第1歩はこれまでの私の歩みや想いを語ることから始まると思います。これまで積み重ねてきた歩みを振り返り、今起こっていること、これからのことをご本人の言葉で語っていただくことで、ご自分の気持ちを考えたり気付いたり整理したりすることができるのではないかと思います。現在の時点から振り返ってみると今まで気づかなかった側面や思いがけないつながりなども改めて感じることがあると思いますので、振り返ってご自身の言葉で語っていただくことが必要だと思います。私たち支援者は語りの中から気付きや変化する想いを理解しながら共有していきます。想いのマップは生きる希望やその想いを理解するきっかけとなりますが、無理して聞き出すのではなく語っていただける時に語っていただくことが必要だと思います。ご本人の言葉で語っていただくことによって主体的に最期まで私らしく生きる、そして今を充実させていくことにつながっていくのと考えています。
想いのマップがあることで話を聞く、語ってもらえるきっかけになっていると思います。聞き方、書き方、使い方は色々あっていいと思うので、こうでなければいけないというものではありません。まず歩みからと話をしましたが、もしかしたら今の想いから語ることが一番語りやすかったり、少し先の未来、これからの私というところが語りやすかったり、どこからでも語っていただくことが必要かと思います。これは病気や介護が必要になってからではなく健康なうちから自分自身がどうありたいか、歩みを振り返ることは非常に大切だと思いますので、健康な時から考えていくことが必要だと思います。自分自身は看てもらう立場になるから自分のことは語ってはいけない、こうありたいということは言ってはいけないと思っていたとおっしゃる方もいましたが、ご自身のことを語るということは必要だと思います。引き出すというと聞き出すという感じがありますが、聞く側も話したくなるようなほっとする雰囲気を作っていきながら一緒に考えて悩んで、その方の本当の想いに寄り添っていくということが大事だと思います。ご自身はこうありたいと思っていても奥さんのことを心配して負担をかけたくないと思い、話せないこともあるかもしれません。そのようなことも踏まえながら聞いていくことが必要です。
想いを言葉にし、形にしていくには時間や聞くく側との信頼関係も必要だと思います。項目をすべて埋めることが目的でないのでその方が語らない、書かないという選択もあります。支援する側は、支援者自身の価値観をその方に押し付けないように、常に気をつけながら話を聞く必要があります。想いのマップを活用し療養されている方を中心に、継続的に支後者が手と手をとってその入らしい生活を支援していきます。奥様を看取られた経験のある方から、もっと早く知っていたら自分の奥様に対する想いや介護の仕方が変わったのではないかというご意見がありました。支援のポイントや多職種のそれぞれの機能というところをご覧になっていただくことで、それぞれの活用の仕方はあると感じています。
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