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2013年ホスピス研修講座第2回   2013年12月8日(日)

人生の後始末
  ~人・社会とのつながりを如何に締めくくるか
     仕事・資産等、誰に何を託すのか~
      河 西 俊 文   (山梨県社会福祉士会副会長)

  私は社会福祉士です。社会福祉士は様々な理由により、生活上の支障がある方に保健医療などの関係者と連絡調整しながら、福祉に関する相談に応じ、助言・指導・その他のサービスを提供しています。その中で、成年後見人として障害者の支援に関わることも多くなっています。その体験から、今回の研修テーマである資産やモノなど人生で大切にしてきたものを、誰にどのように託せるのかについてお話します。

I.人生の後始末=「終活」(エンディング)とは
 「自分が死ぬまでのこと」と「自分が死んだ後のこと」のことに分けられますが、自分の死に備え、何を準備しておいたら良いのかです。自分のこと、家族のことも含めて、お金・モノ、医療・介護、葬儀・お墓、想い・思い出等々あります。終活に関する書籍やエンディングノートは書店で多くみかけますが、「やるべきこと」の整哩と指南役を担う手段であると言えます。自分が死ぬまでのこととして、医療・介護の希望、病名・余命告知・延命治療・尊厳死・臓器提供・献体等、また、寝たきり・認知症になった時の生活(施設・在宅)をどうしてほしいのかなどもあるでしょう。
 死んだ後のこととして財産やモノの整理・管理、預金、保険、各種カード類、不動産、家財等を整理し、相続の希望を家族へのメッセージとして残すことです。墓の希望、戒名・葬儀の希望形態、葬儀に呼んでほしい人等々もあるでしょう。終活は、死ぬときに後悔しないためのもといえます。
 「死ぬときに後悔すること」として「自分のやりたいことをやらなかったこと」「行きたい場所に旅行しなかったこと」「他人に優しくしなかったこと」「愛する人に“ありがとう”を伝えなかったこと」「健康を大切にしなかったこと」「自分の葬儀を考えなかったこと」「遺産をどうするか決めなかったこと」などがあげられています。

Ⅱ.あなたが突然倒れたら・・・
 日本人の約30%は脳・心臓疾患で急に亡くなっています。がんで亡くなる人も30%というのが現状です。急に亡くなっていくことも考えておかなければなりません。
 考えておく内容は、生活スタイルによっても違います。あなたの暮らし方は、一人暮らし? 夫婦二人暮らし? 二世帯? 大家族? お子さんと“スープの冷めない距離”? かなり離れて暮らしている?などによってもエンディングのあり方は違ってきます。
 一人暮らしで別居の子ども夫婦がいる方が脳梗塞になる場合、伴侶に先立たれ子ども夫婦と同居の方が回復不能の状態となることも、夫婦二人暮らしで別居の子ども夫婦がいる方が全身麻痺になることもあります。ですから、「書き残してある」ことをある程度「伝えておく」ことが大切になります。「自分の希望」を尊重してもらうと同時に「家族の希望」も尊重し、家族と話し合っておくことが大切です。

Ⅲ.財産情報を把握しておきましょう
1.金融機関ごとに分類して一覧表を作成し、現在の残高を把握すること。
2.保有資産リストを作成する。
3.来るべき相続税の基礎控除の改正(H27年から減額される)にむけ、土地・建物の評価額も把握しておく。
4.全証券を保険会社別に分類して一覧表を作成する。
5.カードローンの返済等未返済内容を共有しておく。(負債が多いと相続の全てを放棄することもできる)
6.ネット銀行やネット証券を利用している人は、利用先会社名とログイン情報(パスワード等)をまとめる。などが必要になります。

Ⅳ.最悪な事態を想定して入念な準備を
 寝たきりになったら? 事故や病気で植物状態や脳死状態になったら?等を考えると急な発症に備えて「見守り」のシステムを活用することも必要です。町内会で「見守り」システムを確立している所もあります。曜日毎に稽古ごと等で出かける場所を決めておき、安否確認がしてもらえるようにしておくのも一案です。
 認知症の発症など、判断能力が不十分になった場合には「成年後見制度」の活用することができます。後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があります。任意後見制度は本人の判断力があるうちに将来の判断力の低下に備え、支援してもらうことについて契約し、公証人役場で公正証書を作成しておきます。判断力がなくなった時には任意後見監督人のもとで、任意後見人による支援を受ける制度ですが、財産等支援を受ける内容を明らかにしておかなければならないことやそのために後見人を選任することが難しく、あまり活用されていません。法定後見制度は既に判断力が不十分な状態にある場合に、本人・配偶者、同親等以内の親族の申し立てによって裁判所が適任と認めた人を支援者として選任する制度です。これまで、後見人は8割程度が親族でしたが、親族以外に、弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門家または第三者である市民後見人、社会福祉協議会等の法人を選任することもできます。また、法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって受けられる支援が違います。判断力が常時欠けている場合は「成年後見人」、判断能力が著しく不十分の場合は「保佐人」、不十分な場合は「補佐人」として選任されます。しかし、いずれも財産処分等は後見人の自由にできるわけではなく、裁判所の監督のもとで行われ、事後報告も義務づけられています。後見人には裁判所の基準に従って報酬が本人の財産の中から支払われます。

Ⅴ.相続紛争は資産家だけの問題?
 相続は“争族”になりがちです。相続紛争は資産家だけに起こるのでしょうか。「うちは財産がないから大丈夫」が一番危険です。75%は5,000万円以下で揉めていますし、その内の35%は1,000万円以下です。遺産の殆どが不動産の場合は不動産の評価を巡る争いに発展しますし、相続紛争の典型的なケースは親と同居している兄弟姉妹がいる場合です。相続人が多すぎる場合も遺産分割協議がまとまらない事態に発展します。夫の死後妻が住んでいた家を追い出されることもあります。相続紛争防止策を考えておく必要があります。「うちの子は仲が良いから大丈夫」はNGです。家族への最後の愛情表現だと思って、遺言書を書いておくと争いを防ぐことになります。
 夫の死後、妻が住んでいた家を追い出される?などまさかの権利主張は、他人事ではありません。配偶者はいるが、子供はいない。子供が二人以上いる。再婚している。再婚した際に連れ子がいる。息子の妻に財産を譲りたい。内縁関係の相手に財産を譲りたい。相続人がいない。相続させたくない相続人がいる。相続人が多い、遠隔地にいる。行方不明者がいる。継承したい家業がある。分ける財産が自宅しかない。完全に“おひとりさま”である等々は財産分割が複雑または、財産相続の争いがおこり易く、家庭裁判所で扱われることが多くなっています。遺言等で生前に遺志を明らかにしておくことで、争いを防ぐことができます。
 具体的には、相続は被相続人の死亡によって開始します。相続人は、相続開始の時から被相続人の財産(遺産)を継承します。この際、相続人が数人いる場合(共同相続)、遺産は各相続人の「共有」になります。この「共有」状態は過渡的状態であり、各相続人に相続財産を分配する手続が必要となります。この手続が遺産分割です。
 遺言は、自分の死後に一定の効果を発生します。個人の最終意思が一定の方式のもとで表示されるものであり、遺言した人の死後、意図された効果の発生が法律によって保障されるものです。撤回することも可能ですので、遺言書を書いておくと残された家族の争いを防ぐことができます。